「大野くん…何で裸でヨーグルト食ってんの?」
雅紀は、ボンヤリと問い掛けた。
カーテンから差し込む窓の光が眩しく、黒目がちの瞳を細めつつ。
「別に全裸じゃないんだからいいじゃん」
そう言って振り向く智が、だんだんと焦点の合ってきた雅紀の視界に映った。
「まぁね…今何時?」
「8時」
「朝の?」
「夜に見えるか?」
そう言いながら、裸にボクサーパンツ1枚という姿の智が、片手にヨーグルトのカップを持ったまま口の端にスプーンをくわえると、ヒョイッと立ち上がり、ベッドの上の雅紀の体を跨いで横切った。そして、その辺に脱ぎ散らかしていた適当なTシャツをかぶると、そのまま部屋を出て行く。
「……」
智が出て行った後、声だけは不機嫌そうだった雅紀はベッドから起き上がると、ゆっくり自分がいる部屋の中を見渡した。

そうだった。ここは何を隠そう(?)智の自宅の部屋なのである。
昨日、智の主演する舞台を1人で観に行った雅紀は、カーテンコールで舞台上に上がるというファンサービスをやってのけ、いつも以上にハイテンション気味だった。そのまま終演後の飲み会に智と一緒に参加させて貰ったのだ。ちょうど明日(日付的には今日になるのだが)は休演日であるせいか、他の出演者やスタッフも盛り上がり、雅紀もすぐに打ち解け、とにかく大いに楽しかった…のは憶えているんだが、その後の記憶がない。
ただ微かに耳元で囁かれた『ほらぁ…相葉ちゃん、靴脱いで』という智の声だけが、かろうじで記憶にあった。
という事で、やはり昨夜は、自分は智の家に泊まったという事らしい。

「スゲェ…リーダーん家泊まっちゃったよ……嵐初だ」
などとボンヤリ呟いていると…。
「ひぁッ★」
いきなり頬に冷たい感触。
水のボトルを持ってきた智が、雅紀の頬に押し当てたのだ。
「ありがと……大野くん、昨夜はどこで寝たの?」
「あ?ここ」と、床を指差す。
「え…何で?!」
「だってデカイのが占領してんだもん。…声もデケェよ」
智は、そう言いながら眉間を寄せ、ボリボリと頭を掻き、よっこらしょ…と出窓に座る。
「…ゴメン」
「んー」
まだボンヤリしている生返事で窓の方に振り返り、眩しそうに外を見る智。
「……」
雅紀はボトルをグビッと飲んだ。何となく戸惑っている自分に驚きつつ。
居心地は良いのに、何だか変な感じ。
「…町田くんくらい?」
「は?」
雅紀の不意の問いかけに、キョトンと振り向く智。
逆光の中から雅紀を見つめる智の体は、白いシャツが光反射してキラキラと柔らかい輝きを放っていた。
「大野くんの家に来たのって…事務所の子では」
何を訊いてるんだろう、自分は。
雅紀は口に出した事をすぐ後悔したが、どうにか撤回しようと考える間もなく智が答えた。
「んー…そうだっけかな。わかんね」
「…だろうね。ホントは憶えてないくらい沢山いるんでしょ?大野くんモテるし」
「まぁ〜ね〜」
「何笑ってんだよ。忘れんぼって意味だよ。嫌味だ、嫌味」
雅紀が言うと、智は笑ったまま。
「分かってるよ、そんくらい。6年も一緒にいりゃ…おまえの言葉の意味ぐらい」
と、まだニャハニャハ笑っている。

『おまえの…』

いつもは“相葉ちゃん”と呼ぶ智が、ファンは勿論スタッフも側にいないようなメンバー同士だけの本当に内輪の会話の時、その中でも年に数えるほど時々だが、智は雅紀をこう呼ぶ。智は無意識だろうけど。智にこう言われるのが、雅紀は何故か密かに好きだった。智には内緒だけど。

「相葉ちゃん?」
何も言わない雅紀を、智が覗き込むように首を傾げる。
智の影が動いて、雅紀は我に返った。
「あっさり泊めるんだもんな…あんなに拒否ってたのに」
「何?そうだっけ?」
「いつも言ってるくせに」
「んー?深い意味じゃ…いつも言ってっか?」
「俺達とか入り込んじゃいけない何かあるのかと思ったよ…普通の家じゃん」
「あのなぁ…」
さすがに呆れたように溜め息を吐く智。
「どうしたんだよ。昨夜あんだけ盛り上がっといて何絡んでんの?俺が見てないとこで何かあった?」
「何も。ホントに楽しかったよ。ただ…」
「ん?」
「大野くんはルールが多過ぎるんだ」
「……」
「とても俺には憶え切れない」
「……」
「大野くんみたいに憶え良くないし…」

こんな会話でも、何しろこの2人だからか、変に張り詰める事もなく、むしろ言葉とはチグハグな口調だった。
お互いの少しかすれた低い声が、柔らかくて心地良かった。
そんな優しい沈黙を破ったのは、智だった。

「じゃあ一生かけて憶えろよ」
「な、何だよソレ?!」
「全部憶えたら教えて。何か奢る」
「あのね…」
「いいじゃん、嵐くん不滅だし。いつでも会えるだろ?」
「…おじいちゃん、まだ酔ってんの?」
「ハハハッ…」
「もー、ハハハじゃなくてー」
かすれた声を一際高く上げて笑う智に、雅紀はベッドから降りて飛び付いた。
智は、雅紀の最後の問い掛けには答えず、飛び付いてきた雅紀の腰を抱き寄せた。
不意打ちでバランスを崩した雅紀は少しよろめきつつ、智の肩に腕をまわして姿勢をキープした。
「……」
「何だよ?」
雅紀は自分の体に手をまわしている智をふと見下ろし、笑いながら尋ねた。
智は密着させた雅紀の体を、自分の体で押すようにユラユラ動かしながら、憎たらしそうに、でもおどけた口調で言った。
「一体何食ったら、んなにデカくなるんだよ〜〜〜」
その台詞に、雅紀はおかしくて笑った。
「大野くんが小さ過ぎるんだよ」
「黙れ〜」
「カトゥーンにも言ってたよねー…そんなに175センチって羨ましい?」
「だ〜ま〜れェ〜…」
くっ付いたまま、ケラケラ笑いながら、そのまま2人はキッチンへと出て行った。

―END―
『SAFEST PLACE TO HIDE』Song by BSB



戻る