RHYTHM NATION


西暦200X、第三次世界大戦終結後。
都市は破壊され狂った人々の心は歯止めを失っていた。
道を歩けばビスケット1枚をかけて殺し合いが日常茶飯事に起きていた。
再生に向けて戦う力を、安易に染まりやすい悪の争いで代用するように。


そんな時だった……“サトシ”の噂を人々が囁くようになったのは。
それは怯え切った人々の心に、そよ風のような安らぎと癒しを与え、時には嵐のような強さで眠りかけていた勇気を奮い立たせてくれた。


“サトシが歌うと風がリズムを刻み音楽を奏で、サトシが踊ると輝きを増した月光が街を照らす”


「どいつもこいつも寝言みたいな事言いやがって。歌聴いて平和になりゃ世話ねぇじゃん。チャラチャラ踊る代わりに金よこせってんだ!」
俊太は黄色く脱色した髪をクシャクシャかき上げて吐き捨てた。今夜、ボスから預かった品物を渡して取引が成功すれば、妹に薬を買ってやれる。攻撃軍に両親を殺され、兵士に乱暴された幼い妹は傷を抱えたまま病にかかっていた。
妹を傷付けた兵士を半殺しにした俊太は、牢獄に入れられ、脱走した。そんな俊太に残された生きる道は、共にストリートキッズとなった仲間達に誘われるまま闇の世界へ飛び込む事だった。


真夜中。時間が来て、俊太は辺りを見回しながら震える足を振り切るように全力で夜の路地を駆け抜けた。破れたGジャンから冷たい風が俊太の体を刺す。
「?!」
突然、見覚えのない一人の若者の姿が俊太の前に立った。
「待ってくれ、俊太。話があるんだ」
黒の上下に身を包んだ若者。背丈は俊太と変わらないが、ノースリーブの肩から伸びた腕は均等の取れた筋肉質だった。瞳は優しく澄んで、美しい狐色の短い髪がサラサラと揺れている。
「何だよ!取引中止かよ!」
俊太はポケットの中のブツを小刻みに震え続ける手で握り締めながら、彼に叫んだ。
「違う。俺は取引相手じゃない」
「じゃあ誰だ!何で俺の名前知ってんだよ!」
「知らない人なんかいるもんか。キミは街の皆に好かれてるのに。こんな事やめろよ!」
「やめてどうやって生きろってんだよ!俺は今すぐ金がいるんだ!」
「妹の事だろ?」
「どうしてそれを?」
若者は俊太の前に来ると、俊太の手に小さな瓶を握らせた。中にはキラキラと光る少量の水が入っていた。
「これを彼女の体にふりかけて。肌なら体のどこでもいい。キミが真っ当な方法で金を手に入れて薬を買えるまで妹さんの容体は安定するから」
「・・・見返りは何だよ?」
警戒心いっぱいに睨む俊太に若者は答えた。
「二度とこれをしない事だ!」
「・・・」
瓶を握らせた俊太の手をずっと放さない若者。握られた手の温もりに、こわばっていた俊太は次第に解放感を覚えていった。瞬間。
「おい、ガキ!」
現れた取引相手が俊太に銃口を向けていた。罠だったのだ。火を吹いた銃口から真っ直ぐ俊太に向かってきた。
「!」
俊太は目を閉じた。鋭く大きな銃声だった。でもそれは銃声ではなく、やがてテンポ良くリズムを刻み、警備隊の車のランプだと思った赤い光はステージのライトに変わっていた。ダイナミックな音と光の一体感。敵に騙されて撃たれたと思っていた俊太は、いつの間にかステージの光に包まれていた。
「?!」
振り向くとロフトのステージに誰かが。俊太は引っ張られるように駆け上がる。踊る輪郭が見えた。さっき俊太を止めた若者がターンを決めジャンプすると、眩しい光の満月の中に、その美しいシルエットが舞った。


これは試練.勇気に溢れた世代よ.私と共に前に進もう………


「サトシなの?」
音が止み、静寂の中で、俊太は若者を見つめて問いかけた。すると若者は頷いた。
「楽しかった?今度は元気になった妹と観てほしいな。そして一緒に踊ろう」
「どこに行けばサトシに会えるの?」
「願ってくれれば俺から行くよ」と、サトシは微笑み、俊太を抱き締めた。
俊太は両手を伸ばしてサトシの力強い背中を抱き締め返した……


「キミ、ケガはないかね?!」
「!」
気が付くと俊太は警備隊に保護され、向こうで手錠を掛けられている取引相手が見えた。
俊太のポケットの中のブツは消えていて、若者から渡された小瓶だけが残っていた。
「あの・・俺?」
「あの組織はもう終わりだ。心配ない。家に送ってあげるから安心しなさい」


復興に向けて活気づいている街の雑踏を、自転車で駆け抜ける俊太がいた。
「あ…」
ふと目をやる角の工場では、見覚えのある友達が見えた。作業に熱中していて俊太には気づかず、油まみれでも瞳は生き生きしている。ついこの前まで俊太と共にブツを運んでいた彼とは別人のように。
「やばい☆遅れちゃうぞ」
俊太も仕事場へ向かってペダルをこいだ。


皆“サトシ”を見たのだろうか。
今夜もどこかで“サトシ”が踊っているのだろうか。
ひょっとしたら夢なのかもしれない。
強く生きたいと願う人々の心が“サトシ”の姿に変わって自らを呼び起こしたのかもしれない。
それでも構わない。
今でも心の中でリズムを刻んでいるから。
サトシが気付かせてくれた、生きるリズムが……。


―END―

サトシ=大野智
俊太=宮城俊太(Jr)
『Rhythm Nation』Song by Janet Jackson



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