風助の声が出なくなって暫くが過ぎたが、周囲の心配をよそに風助は雷蔵達と共に以前と変わらずマイペースな生活を送っていた。
前と違う事と言えば、一緒に過ごす仲間が雷蔵だけではなくなった事だ。
「風助?風助、どこなの?」
昼食時になっても住処に戻ってこない風助を探しに、一人で野原にやってきた雪那。
すると、気持ちの良さそうな桜の木陰で、画用紙に筆を走らせている風助を見つけた。
今日は筆がノリまくっているのか、妙に御機嫌な表情の風助。
「さては…また春画?……風助!」
雪那の声にピクッと飛び上がり、顔を上げて雪那に気付き、ヤバイ!というようにアワアワする風助。
「またそんなモノ描いて、おまえは懲りないのね!このスケベ!待ちなさい!」
画用紙を奪い取ろうとする雪那と、すばしっこく逃げ回る風助。
青空の下で暫く続く二人の追いかけっこ。
「あッ!」
木の根っこに躓いてしまった雪那。
「!」
チャンスとばかりに逃げれば良いものを、風助は咄嗟に振り返って、バランスを崩した雪那を抱き止めた。
「…★」
風助と雪那は、二人で一緒に原っぱの上にコロコロと転がってしまった。
すると風助の手から離れてヒラヒラと宙に舞った春画(と、雪那は思っている)が、二人の上に落ちてきた。
「見せるのよ!」
仰向けになっている風助の上に乗ったまま、容赦なく紙を奪い取る雪那。
動けない風助はハァ…と息をついて『参りました』というふうに脱力した。
「!……」
てっきり春画だと思って目の前に広げた画用紙を見て、雪那は固まった。
描かれていたのは、雪那の美しい肖像画だった。
「風助、おまえは……」
慌てて体を離して風助を見ると、ほんのり紅くなってモジモジ気味の風助。
風助のこんな顔を初めて見た雪那は、どうしていいか解からず思わず言った。
「な…何よ、何とか言ったら?」
すると風助は『言いたいのは山々だけど無理だよ』というように、自分の首の傷を指しながらプルプルと首を振った。
「……」
ひょっとして、この男に今でも声があったとしても、あんなに達者な口も“愛の告白”となると役立たずと化してしまうのだろうか。
そう思うと不思議な気持ちが雪那の中に芽生えてきて、何だか風助が可愛く思えてきた。
そんな雪那の満更でもなさそうな顔を見て、パッと微笑んだ風助は『わーい♪』というように雪那に抱きついた。
「こ、こらッ!早速甘えるなー★」
「♪♪♪」
のどかな春の御日様の下で、二人のジャレ合いがまた暫く続いた。

―END―
風助=大野智
雪那=吉野きみか



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