第6話・パニックタワー

『おはようございます!今日も日本の空は快晴です♪本日最初のリクエストは偉大なる名曲“2001年宇宙の旅”でおなじみの、ツァラトゥストラはかく語りき』
ラジオから元気なDJが言った。
「よっこいしょと☆」
キッチンの床下収納庫を開けて、中から漬物の入った重い樽を取り出す智。
「できたかな〜?」と、智はドキドキしながら一つつまんで味見する。
「ん〜・・・♪」
瞳をピコピコ点滅させながら「美味!」と感動のガッツポーズ。そんな智を祝福するように、ラジオから流れていたシュトラウスの壮大なオーケストラがジャジャア〜ン!とファンファーレのようにキッチンに響いた。
「・・・智、何を朝から昇天してんの?」と、智の背後に寝起きの和也。
バクハツ頭をボリボリかきながら眉を寄せて智を見る。
「和也くん、おはよ!」
「おはよ・・」
「はい、アーン♪」
「?」
口に放り込まれた漬物の美味しさに目が覚める和也。
「ウマイ」
「でしょ?特製の“おーちゃん漬け”だよ。やっとできた。朝ご飯作るね♪」
和也はラジオをテレビに切り替えてテーブルに座った。今日は休校日なので、急いで顔を洗う必要もなく大欠伸しつつ。
「相葉ちゃんは?」
「あ、そう言えば早くに出かけちゃったんだよ。研究所から仕事を頼まれたらしくって」
「何の仕事だろ?」
「さぁ、わかんないけど相葉さんが任されるんだから難しい事なんだろうねー」
「マーチンは?」
「お使いに行って貰った」

その頃。デパートの開店と同時にマッハの駿足を活かして智に頼まれた限定特売品をゲットし、勝利の微笑を浮かべるマーチンがいた。

再び、和也の家。テーブルを挟んでテレビのニュースを観ていると「あれ?相葉ちゃんだ」と、和也がポカンとしながら画面を指差した。貿易センターのような大きなビルが映っていた。
『USO本部のビルで問題が発生し、科学研究所から研究員が派遣されました』
雅紀の顔写真をバックに喋るアナウンサーの真剣な顔。
「なんか大変そうだね、相葉さん。お弁当持ってってあげようかな」
「あ、それイイ!行こうぜ♪」
「うん。あ、おーちゃん漬けも持っていこう。元気が出るから♪」
そんなわけで和也と智は、雅紀のいるビルへ出かけていった。

「こらこらこら!子供は近付いちゃいかん!」と、ビルに到着した和也と智の前に、総合格闘家のようなガードマンが立ちはだかった。
「僕達、中にいる相葉研究員の身内なんですけど」と、和也が抗議してもムダだった。
ヒョイと軽くつまみ出される和也と智。
「何だよ、ケチ。智、あんなガードマン投げ飛ばしちゃえよ」
「やりたいのは山々だけど怒られちゃうよ」と、困った笑みの智。
「そりゃそーだよな。う〜ん、何か良い方法は・・・あッ♪」
ひらめいた和也は、智の手を引いてビルの裏側へまわった。

「和也くん、怒られるってば」
「大丈夫だよー。相葉ちゃんに差し入れするだけじゃんか。ほらっ」
「もう、今回だけだよ?ちゃんと掴まっててよ?いい?」
「はーいっ♪」
和也を背中におんぶして、さらに体が離れないようにロープで縛り付けた状態で、高層ビルの壁面をスイスイのぼっていく智。
「マ・・ママー!スパイダーマンだ!見て!スパイダーマンがいる!」
向かいの高層マンションのベランダから智達を見ていた子供が叫んだ。
「バカなこと言うんじゃありません、この子は!」
奥の部屋から母親が言った。

何とか中に忍び込んだ和也と智、ヒョコと柱の陰から顔を覗かせて「ヒエ〜なんか警備凄いな☆」
「だから言ったじゃん、和也くん」と、眉毛を下げる智。
「ウダウダ言わずに行くのっ。相葉ちゃん捜さなきゃ」

「人類の夜明けから何年経ってると思ってるんですか」と、雅紀はムッツリと眉間を寄せて、USO本部所長に言った。
所長の国分太一は27才という若さで宇宙の不思議を調査する世界規模の組織を背負ったプレッシャーと日々戦いながら胃薬のお世話になっていた。
「そんなに俺を責めないでよ・・・好きで所長やってるわけじゃないんだから。死んだ親父の跡をムリヤリ押し付けられた身にもなってよ」と、キリキリする胃を押さえながら、国分太一は弱々しく反論する。
スーツ姿で所長の立派な椅子に座っているが、その様は両脇に立っているムキムキのSP(もちろん格闘家風)に捕らわれているように見える。
「御苦労はお察ししますけど」と、雅紀は溜め息を吐いた。
「とにかく、今は科学が口笛を吹きながらミッドシップカーに乗ってる時代なのに・・・本当にそんな物があるんですか?」
「すまなかったね。てゆーか我々の会社と科学研究所は真逆の立場なのに依頼するなんて冗談みたいだね」
ゲッソリして嘆く太一は根が良い人なだけにストレートに突っかかれないのが紛らわしい、と雅紀は思いつつ「いいえ、仕事ですから」と、特製の防護服に着替え始めた。
「社員は全て避難させて、このビルにいるのは僕と国分さんと数名のガードマンだけですね?」
「あ、それは抜かりないよ♪」と、雅紀の問いに太一は頷いた。

「…ひょっとして俺ら迷子?迷路みたいなビルだな。それにしても、この階には全然ガードマンいないし、変なの」
和也は言った。宇宙船の内部のような廊下を和也と智は歩いていた。
「・・・」
和也の少し後ろを歩く智は、何かを感じて辺りを見回した。
「智?」
「・・和也くんの言う通り、やっぱり変だよ。来たの間違いだった」
「え、ここまで来たのに?」
つまらなそうに口を尖らす和也。
「力ずくで止めるの簡単なのに、しない智も悪いんだぞー」
「ゴメン…」
「眉毛下げてシュンとすんなよ。俺イジメっ子みたいじゃんか。・・分かった、戻るよ、もう☆」
クルリとUターンして角を曲がると「ゲッ!」
和也が叫んで固まる。
「どうしたの?和也くん!」
入ってきた時に見かけた警備員達が床のあちこちに倒れて意識を失っていた。
「大変だ。よく分かんねーけど救急車・・」と、アワアワして携帯を取り出そうとした和也を、ドォーン!「痛ッ☆」いきなり智が突き飛ばした。
後ろに勢い良く飛んだ和也はそのままゴロンと後ろ向きデングリ返りで1回転し、抜群の運動神経を活かしてスチャッと元の体勢で着地すると「何すんだよォ?!智のバカ!」
バカの『カ』を言い終わらないうちに、ドカァーン!
「!?」
和也が立っていた場所に天井を突き破って落ちてきた巨大な物体。智が突き飛ばさなかったら、和也は下敷きになっていた。生き物だと分かったのは凄い目で和也を見下ろしていたからだった。謎の怪獣ともマシーンとも思える、恐ろしいモンスターの姿。その大きな鋭い爪が、和也の上に降ってくる…。
「えーッ!マジで!?」
叫ぶ和也。怪物の背後からジャンプしてきた智が怪物の頭上を飛び越えてキックで一撃し、怪物の腕がちぎれる。そのままバランスを崩した怪物の首根っこを両手で掴むと、智は自分より何倍も大きい怪物の体をブンッ!と投げ飛ばした。廊下の向こうまで吹っ飛び、激突して息絶える怪物。が、息をついたのも束の間、天井の穴から同じ姿をした不気味な怪物達が次々と現れて2人に襲いかかって来た。
「逃げろ和也くん!」
「言われなくても走ってるよ!」
仲間を倒した智の方に狙いを定めた怪物達は鋭い爪をブンブンと振り回しながら物凄い速さで迫る。ジャンプで避けた智は空中で回転し、折り重なって倒れたガードマンの脇にヒラリと着地し、間髪入れずガードマンの腰の銃を両方引き抜くと、素早く2丁拳銃で怪物めがけて連射した。次々に命中するが後から何体も現れる怪物は切りがない。
「何なんだよ、あいつら!?エイリアン?ジュラシックパーク?パラサイト?ありえねーよ!怖えーよ!キモイよォーッ!」
無理もないが完全にパニックの和也は叫びながら全力疾走した。

家に戻ったマーチンは、緊急メッセージを知らせるランプが点灯しているのに気づいた。
「?」
ボタンを押すとスクリーンにメッセージが表示された。
『マーチン、USOタワービルで待ってるわ。サ・ト・シ♪』
「・・・何だ、これは」
マーチンは眉間を寄せた。

その頃。ビル内にある最高設備の極秘研究室の中で一人、雅紀は任務の最終段階に入ろうとしていた。USOが発見した呪いの卵が入った壺を特製の液体窒素で固まらせるのだ。惑星直列の日に卵が孵化して危険なモンスターに変化する事が判明したのでUSOは研究を中止し、人類のピンチを防ぐために雅紀が呼ばれたのだった。
「何がピンチだよ、正義ぶって。そんなモノ見れるもんなら拝見したいさ。妙な研究が失敗したからって科学研究所に後始末を依頼するなんてセコイんだから」と、全く信じていない雅紀はブツブツと本音を呟いていたが。
「さてと・・ん?」
仕上げに取り掛かろうとした時、何かを踏んで雅紀は拾い上げた。割れた破片だった。
「・・・」
見ると、いつの間にか粉々に割れていた壺の破片が床に散らばっている。
「!」
雅紀は巨大な気配を感じて、静かに頭上を見上げた。
「ウソ・・まさか」
雅紀を見下ろす目が闇に光る。
「一歩遅かった・・・てゆーかエライこっちゃ!」
雅紀は咄嗟にバズーカ型ジェット噴射機を構え、モンスターめがけて発射した。

「エレベーター遅過ぎ〜!」
和也が半泣きでボタンをバシバシ叩いていると「キミ、キミ、ここに隠れるんだ!」と、横の部屋のドアから和也を引っ張り込む手。
「あなたは?」
「USO所長の国分太一だ」
「えー!あなたが?」
「刑期を終えたら真っ先にキミの家にお詫びに行くから許してくれ。一般市民をこんな事に巻き込んでしまって」と、うなだれる太一。
和也はキョトンとして「刑期?所長さんが刑務所に入るんですか?」
「当然だ!責任を取って自首する!もう沢山だッ・・」
バタン!すでに限界だったのか太一は叫びながら気絶した。
「あーもー気絶したいのはこっちだよ!」

その頃。
「智?」
ビルのガランとしたロビーに到着したマーチン。
「・・・呼び出しといて姿を見せないとはけしからん。おい、どこにいる?」と、その瞬間、ガシャァァァン!
頭上。見上げるマーチン。ステンドグラスの天井が派手に割れながらマーチンの上に降り注ぐ。が、動揺する事のないマーチンは、ダイアモンドダストのようにキラキラと飛び散るガラスの破片と一緒に落ちてくる何体もの物体を冷静に見据えていた。物体に混じって、智が同時に落ちてきたのが見えて「?」と、マーチンは首を傾げた。すると、その中の一匹がマーチンの目の前に。視界を塞がれて不機嫌そうに眉を寄せるマーチン。唸り声を上げながらマーチンに牙をむく怪物。瞬間、シャキーン!・・・スッと出したマーチンの手の指先が高速変形し、怪物の体に鋭く食い込む。ブシューッ!真緑(青汁チック)の液体が怪物から噴き出し、次々に襲ってくる大群を一網打尽にしていくマーチン。
相手にしていた怪物の首を絞め上げながら、それを見ていた智は「わぁー★マーチン何それ?!」と、目を見開く。
「俺の武器だ。緊急の用ってこれか?」バスッ!と怪物の急所を突きながら答えるマーチン。
「そうだよ!手伝って欲しくて!でもマーチンのが怖い〜!」と、格闘の手は休めぬまま泣きそうになる智。
2人で全て倒し終わると、フロアにはグロテスクな死骸が散乱したが、智はジ〜ッとマーチンを見て言った。
「それDrビーフの趣味?野蛮〜」と、思いっ切り眉を寄せる。
マーチンの手は5本のナイフが突き出したような金属状に変化している。
「野蛮とは何だ。役に立っただろうが。この恩知らず」
ムッとした顔で、シュルルル〜と刃先を引っ込めて元通りにする。
「冗談じゃないよ。それを人間に向けたらどうなると思ってんのさ?」
「人間には反応しないように雅紀の手で改良されたよ」
「ホントに?」
「本当だ、しつこいな!」
その時、まだ息のあった一匹がガァァァ〜!と唸りながら再び向かってきたが「うるさい!」
2人のWパンチで、アッサリ絶命した。

「相葉ちゃん!」
太一を安全な場所に寝かせてから雅紀を捜しにやってきた和也は、廊下で倒れていた雅紀を見つけて駆け寄った。
「・・和也くん?」
和也が抱き起こすと、雅紀が目を開けた。
ホッとした和也は「よかった。相葉ちゃんも襲われたの?何なの?あのバケモノ。おかげで智とはぐれちゃったよ」
「呪いの卵が孵化してしまった。孵化すると分裂して色んな物に姿を変えるんだ」
「え?」
「その人が怖いと思う物だけじゃなく逆の姿にも・・・」
「!?」
雅紀の手がグイッ!と和也のトレーナーの首根っこをワシ掴みにした。凄い力で。雅紀だと思っていた姿が見る見るうちに変化し、正体を現していく。
「放せー!このヤローッ!」
和也は足をバタバタさせて必死に抵抗した。すると雅紀だった姿は、さっきのモンスターに変身した。
「小僧、教えろ。俺達の父はどこだ?」
何と怪物が喋った。それによって気色悪さも倍増。
「知るか!おまえの父ちゃんなんて!」
和也は必死に蹴って抵抗した。その時。
「おい!こっちだ!」
雅紀の声。振り向くと、ボロボロの白衣姿で、特殊な密閉ケースを手に持った本物の雅紀が怪物に叫んだ。
「その子を放せ!おまえ達の親玉はこの中に閉じ込めた!」
「!」
雅紀に目を向いたモンスターは和也を放り投げた。
「★」
和也はすぐに起き上がり雅紀の元へ走った。
「相葉ちゃん、どういう事?それ何が入ってんの?」
「特製窒素で凍結させた遺伝子・・・あいつらの元素だよ。USOが言ってた呪いの卵の」
「父親って、これの事?」
「そうだよ。本当は地球防衛軍に渡して宇宙で破壊して貰う予定だったのに・・・惑星直列は来週じゃないか〜」と、すっかりグロッキーな雅紀。
「しっかりしてよ、相葉ちゃん!俺は科学の力を信じるよ!呪いなんかに負けないよ!」
「和也くん・・」
雅紀は意を決した。
「喜多川博士!僕に力を!」
取り出した銃型の注射器をケースの赤く光った注入口に突き刺した。
「これが赤から青に変われば怪物が消える!」
「ホント?」
「科学が勝つか魔力が勝つか、それが問題だ・・・」
「相葉ちゃん」
雅紀の腕にギュッとしがみつく和也。雅紀も和也を引き寄せて抱き締め、2人は壁際に追い詰められたまま目を閉じた。向かってくるモンスター。
「!」
ケースのランプが青に変わった。怪物の爪が数センチに迫った所で、怪物の動きが止まり、大きな唸り声を上げて苦しそうにもがき始めた。怪物の体からシューシューと煙が上がる。そして消滅した。雅紀と和也はヘナヘナと座り込んだ。
「和也くん・・・今更聞くけど、なんでここにいるの?来ちゃダメじゃないか」
「・・ゴメン。弁当届けに来ただけなんだけど、あいつらに踏ん付けられてグチャグチャになっちゃった」

「あれ、マーチン、見て」
「?」
フロアじゅうに散乱していた、智とマーチンが倒したモンスターの死骸が、親玉の卵が破壊された事によって消滅していった。まるで幻だったみたいに跡形もなく。
「これ、どーすんだろ?ガラスだらけなんだけど・・」
「ほっとけ。不可抗力だ」と、淡々と肩のホコリをはらうマーチン。

ようやくビルの外へ出た和也。一緒の雅紀もグッタリして正面玄関の階段に座り込んだ。
「あれ、レスキュー隊、今頃遅いな〜・・・ねぇ、相葉ちゃん」
「ん?」
「国分さん、刑務所に入れられちゃうの?あの人、俺達を助けようとしたよ?」
すると雅紀はクスッと微笑み「そんな事にはならないよ」
「ホント?」
「ホントだよ。俺が証言する」
「良かった♪」
「それに彼は、これからも続けていくと思うし」
「分かるの?」
「うん。彼を認める事は科学者として減点になっちゃうけど、まぁいいでしょ」

「でも料理の時に便利かもね、マーチンの手♪」
「何だと?」
「冗談だよー」
外へ出る階段を下りながら、智はケラケラ笑った。
「マーチン、すぐマジになるんだから・・・あ、和也くーん!♪」
バシッ!マーチンを押し退け、和也の姿を見付けてホップ、ステップ、ジャンプで飛び付く智。
「マーチンも来てたの?」
智の手がヒットした鼻の頭をさすっていたマーチンに気付く雅紀。
「呼び出されてね。雅紀の改良が役に立ったよ」
「そっか、マーチンも人間のために戦ったわけね♪」
「フン☆」
すると「相葉ちゃん、マーチン、帰ろー☆」
夕焼けの中、智に羽交い絞めにされたままの和也が、雅紀達に手招きした。

―END―



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