第4話・PEACE!〜後編〜

「和也くん・・・お昼ご飯、何食べたんだろう」
「人より自分の心配をしたらどうなんだ、SB‐1126。…だいたいまだ昼前だ」
「あっそ。和也くんはどこ?」
バイオニック専用の拘禁室。智は、特殊に造られたシートに十字架のように張り付けられていた。その前に立っているのは、若き頃から喜多川博士に怨念を抱いて生きてきたDrビーフだった。自らの肉体をバイオニックに改造しようとして失敗したグロテスクな姿で、薄笑いを浮かべながら智を見ている。
「あなただったんだね?ピカ子先生の結婚式の時、地下室で僕に話しかけたのは」
「あの時素直に従えば良いものを。これは全て貴様が招いた結果と思うがよい」
「盗んだ博士のデータを元に新たなバイオロイドを造ったじゃないか。僕に何の用があるの?」と、膨れっ面のまま反論する智。
「・・・確かに。しかし悔しい事に所詮はコピーに過ぎんのだよ!」
智という存在が、コピーさえも困難な奇跡の発明だという事を発見したのと同時に、喜多川博士の力の偉大さをビーフは痛感しているのだ。
「私が欲しいのは貴様のバイオチップなのだ」
「!」
智の額の真ん中に、ツン・・とセラミックスの指が当てられた。
「1126、バイオコンピュータの改造手術に応じるのだ。断れば・・・貴様と共に捕らえた少年の命はない」
「!?・・そんなぁ」と、智の眉の角度が一気に急降下。
「あなたが博士に勝てなかった理由が分かる。チップで人間を操ろうなんて考えを持つ人が喜多川博士にかなうわけない!」
「えぇい黙れェ!」
ヴィィィーーーン!!!
「うッ!」
・・・カクン。
「和也・・・くん・・」
シートを通じて智の体に送られていたパワーセーブ機能のレベルをマックスにされ、ついに智は停止状態になり、気絶したようにグッタリした。

智が隔離されている部屋の最上階。太平洋を一望できるテラスのソファに和也は座らされていた。1度目はコンビニ、2度目は学校に現れて、自分をさらった彼の後ろ姿を和也は見つめていた。
「和也くん、俺が怖いかい?」
頬にかかった長い髪を顔を揺らして振り払いながら、和也に問いかける彼。
「・・怖いと思う。智とは違うから」
「それはSB‐1126の事か?」
「そんな番号であいつを呼ぶな」
「本来の呼び名だぞ。どこがいけない?つまらない事にこだわるんだな、人間は」
クスッと笑う彼に、和也はフンッとそっぽを向いた。
「あんたを見た時あいつ、咄嗟に俺に言ったんだ。あんたは自分と同じだって。バイオニックだって意味で言ったんだろうけど。・・でも違う。同じじゃないよ」
和也はキッと彼を睨んだ。
「智は、あんたとは違う!」
「なるほど。けど、そんなことはどうでもいい」
「!」
和也の顎を捕らえて強引にこっちを向かせた。
「彼にはDrビーフの元に我々と共に働いてもらう。キミはそれまでの人質だ。キミの意見は必要ない」
「我々って・・・バイオニックは何体もいるのかよ?」
「今は使い物にならないゴミだ。コピーデータが一部欠落したのばかりで」
ウンザリしたような溜め息混じりで言う彼。
「よって1126のマスターチップから直接データを注入しなければならない」
「じゃ・・あんたは何なの?」
「唯一成功した“もう一体のバイオロイド”さ。しかも・・」
「?」
「俺は単なるコピーじゃない。1126を上回る完璧な最新型さ」
「・・そうだね。機械として完璧だよ。血が通ってないのがよく分かる。冷たいもん」
「ふん・・どこまでも生意気なガキだね」
「・・・」

その頃。和也達が捕らわれている要塞の裏に気付かれないように着陸した一台のセスナ。
「何だよ、ここ・・何県だ?日本か?」
翔はとりあえず道具の入ったリュックを背負って勝手口から忍び込んだ。迷彩服にバンダナを巻き、やる気満々である。楽しみにしていた母校の文化祭を妨害されて、すでに翔の各々回路はプッツン(死語)していた。

和也は、ある部屋に連れて来られた。ひんやりとした空間に手術台のようなベッドが幾つも連なり、その上には和也と同年代位に見える少年達の体が1人ずつ横たわっていた。
「人間の死体じゃないから安心しなよ。さっきキミに話した欠陥のバイオロイド達だ」
連れて来た彼が、和也に言った。TVドラマで見る遺体安置所のような雰囲気に和也は一瞬引いたが、少年達の穏やかな顔を見ると少しずつ怒りが沸いてきた。
「人間だよ!」
「そう見えるだけだ。俺や1126のように」
「そうだよ。だから許せないんだ!」
和也は彼に向かっていき、その胸元を掴んだ。
「あいにく俺は頭良くねぇから彼らもあんたも人間にしか見えない!人間の体をチマチマコピーするんじゃなくて、世界征服したきゃガンダムみたいなデッカイの造って一気にやっちまえばいいじゃんかよ!」
「・・・」
不思議な目をしながら和也を見つめる彼。
「何だよ?さっきみたいに威圧感たっぷりに言い返せば?殺したきゃやれば?ニヒルな態度がカッコイイとでも思ってんのかよ。ナヨナヨしくて笑っちゃうぜッ」
フン!と彼から手を離し、和也は思いきり『いーッ』をした。
「でも、これだけは俺にだって分かるもんね」と、和也は悪戯っぽく微笑んだ。
「これからの未来に、他にどんな発明が出てくるかは知らないけど、喜多川博士が造ったバイオニックより凄いバイオニックなんかいないよ」
「何だと?」
「智だけにしかないものがあるからさ。あんたになくて、智にあるもの。誰にもコピーできないものがさ」
「何だというんだ!」
「精密な脳ミソで頭良いんだろ?何なのか考えてみろよ」
「・・・」
プライドを傷付けられたように初めて感情をあらわにした彼は、キュッと唇をかんで和也を睨んだ。

智が捕らえられている拘禁室。Drビーフは手術の準備のためにコンピュータールームへ向かっていた。ウィーーン。ドアが開き、ビーフの助手のDrベンがモップ掛けにやってきた。
「どっこいしょと・・・」
シートに拘束されている智をチラッと見る。智は停止状態で気を失ったままだ。その姿は文化祭の衣装のせいか、ベンの目には何とも悩ましく映ってしまったらしい。掃除道具を置いてスケベったらしく笑い「へっへっへっ、少しなら構わないだろう」と、智の太ももを撫でながらミニスカートの中に手を入れた・・その時。カシャ!
「ハイ、そこまでだ。この変態野郎」
後頭部に何かを当てられて、ベンは固まった。
「だっ、誰だ?!」
振り向くと、迷彩服のハンサムな若者。それはバズーカ砲を構えた翔であった。
「貴様は?!」
「平和を愛する普通の男さ。流血は不本意なんだよ。撃たれたくなきゃ消え失せな!」
ベンが逃げて行くと、翔はノートパソコンと通信機を取り出し、手早く組み立てた。
「奴等が戻る前に済ませなきゃな・・」通信機作動。準備が完了すると、翔は研究室で翔からの連絡を待っている雅紀へ呼びかけた。
「相葉、OKだ!聞こえるか?指示を頼む!」
『了解。桜井、まず智の側頭部にあるネジを外してプレートを開けてくれ』と、マイクの向こうから雅紀が応答した。
「了解・・」
智の後ろ側にまわり、普段は髪の毛で覆われているプレート部分を取り外した。すると智の頭に直径5センチ程の穴が空き、その奥の中心にダイアモンドのような透明色の輝きが見えた。クリスタルに光るバイオチップだった。
『桜井、見えるか?それが智のチップだ』と、雅紀の声。
翔は頷きながら答えた。
「見える。今からパワーセーブを解除して再始動をかける」
『了解』
中から取り出したチップをコンピュータと繋いだ装置にセットし、画面に表示された解除コードを素早く打ち込む。最後のボタンを押して、翔は十字架を切って祈った。
「頼む!成功してくれ!」
・・・ゥゥゥウィーーーン!セーブ解除。
「・・やったぁ!」
翔は跳び上がって、チップを再び智にセットしプレートを元通りにした。すると・・ピカーン!智の瞼が開き、しっかり見開かれた瞳が真っ赤な閃光を放った。そしてゆっくりと普段の黒い瞳に戻ると、数回瞬きをしながら翔を見た。
「あれ、桜井くんだ」と、ニコッ。
バリッ!ベキッ!と、特殊な鉄筋で拘束されていた手足を自ら何事もなく外してシートから下り、翔に抱きついた。
「助けに来てくれたの?嬉しい♪」
「はっはっはっ、俺って天才でしょ?・・なんつって」
子供の頃の翔は、よく家のコンピュータルームに忍び込んで基地のデータの暗号を勝手に解読したりして遊んでいた。そんな幼少期のお戯れが役立つとは自分でも驚いている。
「さて、智。喜んでる暇はないぞ。和也を助け出して、こんな所トットとおさらばしよーぜ」
「うん♪」
「相葉、聞こえるか?そんなわけで和也を救出して脱出する!」
『了解!智、桜井、和也くんを頼んだぞ!』

「やはり侵入者か。基地内で和也少年とは別の自然生体反応が出ている事になぜ早く気付かなかった!」
怒り狂ったDrビーフがベンを蹴り飛ばす。
「お許し下さい、ボス!」
失態のベンは必死に言い訳をした。
「その前に不意をつかれて・・」
「もうよい!」
ビーフは和也を見張っている彼に命令を下した。
「MAX-325、侵入者を抹殺するのだ」
「分かりました、Drビーフ」
彼は頷くと、和也の腕を掴んで隔離室の方へ向かおうとした。
その瞬間……「!?」
轟音と共に廊下の壁が崩れ、キラキラの服を着た何かが見えた。それは肉眼で確認できない速さで、和也を羽交い締めにしていた彼=MAX-325に迫ったかと思うと・・・325の体が衝撃と共に吹っ飛んだ。和也の方は何事もなく、その場で訳も分からずポカン・・とする。
「和也くん、桜井くんと一緒に先に逃げて」
「智!」
智が立っていた。文化祭の衣装の可愛らしい姿のままだが、その目は、廊下の向こうでゆっくりと立ち上がる325を見据えていた。
「和也!」
智が出てきた穴から翔が飛び出してくる。
「和也、無事か!」
「翔くん!」
「行くぞ!」
「でも・・」
「智を信じるんだ!」
「早く行って、和也くん!」
「智・・」
翔に連れられて和也が駆け出すのと同時に、マッハで迫ってきた325を智が遮るように捕らえた。逃れた和也と翔は脱出口へ走る。
「目を覚ませ1126!なぜ貴様は人間の味方をするんだ!」
「眠そうなのは顔だけだ!悪いけど頭はいつも冴えまくりなんだよ!目を覚ますのはそっちだ!」
ドカーン!お互いを掴み合ったまま何枚もの鉄筋の壁をブチ破り、智と325の体は、そのまま要塞の外壁も突き破って外へ飛び出した。天高く放物線を描く2体のバイオロイドは、セスナに乗り込んだ和也と翔の視界にも飛び込んできた。ミニスカートが捲れまくりで迫力ながらも眩しい智。
「わお〜凄まじいね。さすが機械同士の肉弾戦て感じ」
「感心しないでよ、翔くん。智ケンカ嫌いなのに」
「緊急事態なんだから仕方ねーだろ。売ってきたのはあっちだぜ?」
「そうだけど・・あッ!」
「?!」
ドビューーーン!
もはやこれまでと思ったDrビーフの乗った逃走用の小型ジェット機。しかし絶妙のタイミングで智と325を機体の先に引っ掛けてしまいバランスを崩し・・・。
「やばい!あのままじゃ前の岩にぶつかるぞ!」
「そんな・・智!」

操縦席の窓ガラスに張り付いてしまった智と325。
「逃げるのか、卑怯者!」と、智は構わず拳を握るとガラスを叩き破って、その手でDrの首を鷲掴みにした。
しかしDrは不敵に笑って「フン!こうなったら、地獄の果てまで喜多川に付きまとってやるわ!」
「どういう意味ですか?Dr!」
325が問い詰めた。
「貴様にも用はない。喜多川以上の発明など無理な事くらい初めから分かっていた。人類など、どうなろうが知ったことではない!あの世で喜多川自身を呪い殺してやるわ!」
「!」
岸壁が迫った。智は叫んだ。
「バカなこと言わずに一緒に来るんだ!ぶつかるぞ!」
「やかましい!貴様等も道連れじゃ!」
・・・1秒たたないうちに、爆発。そして黒煙が上がった。

和也と翔は、破壊した機体を断崖の上から見つめた。
「智…仲良くなって少ししかたってないのに。おまえと話したい事が沢山あるのに……」
和也は呟いた。隣では翔が、唇を噛み締めながら涙を流している。
「博士、また俺は独りぼっちになるの?」
空を見上げる和也。風に吹かれて立っている二人の肩越しに、ヒョコッと一つの顔が覗いた。ハの字眉毛のつぶらな目で、キョトンと和也と翔を交互に覗き込み、二人の視線の先にある残骸を一緒に見つめ、ホッと溜め息をついた。
「・・・」
和也は横から一緒に覗き込む人影に振り向いた。
「智・・」
「うん、ジャンプが間に合って良かった。衣装も破れなくて良かった♪」と、いつもの和み笑い。
「・・智ィ!」
ガバッ!抱擁。その横で呆然とする翔。
「智が死んだかと思った・・・」
「和也くん、それを言うなら“壊れたかと思った”だよ」
「そっか・・智、あいつは?」
「Drは自滅しちゃったよ」
「バイオニックのあいつさ」
「あれ?そう言えば」
すると残骸から離れた崖の下に倒れている彼を見つけて3人は駆け寄った。
「・・そいつは壊れたの?」
和也が尋ねると、智は彼の体を起こして反応を確かめた。
「停止してる」
「もう動かないの?・・連れていっちゃダメかな?」
「え?」
「和也、おまえ何考えてんだよ?!」と、驚く翔。
「相葉ちゃんが直せるかも」
「だって和也、こいつは悪い奴だろ?」
「俺、ハッキリ分かったんだ。バイオロイドとロボットの違いが。決まった命令だけに従うのがロボットで、限りなく人間に近い人造人間がバイオロイドなら、きっと彼は変われるよ。智にしかないものが何なのかも自分で見つけると思う」
「僕にしかないもの?」
キョトンとする智に、和也は悪戯っぽく笑った。
「智、家に帰ったら一緒に相葉ちゃんに頼んでくれる?」
「分かったよ。和也くんがそこまで思うなら。よいしょっと」と、彼の体を肩に担ぐ智。
「いいのかなー☆」と、翔。
「その前に翔くん、学校に俺らを連れて帰って」
「そうだよ!文化祭だよ!アブねー忘れるとこだったじゃん!」
時刻は正午。出し物の時間には間に合う。セスナに乗り込み、悪夢の要塞から脱出した和也達は、皆が待つ文化祭へ戻っていった。

『智、おまえにしかないものはね、博士の愛だよ♪おまえの中にはそれがあるんだよーん♪おまえみたいに彼だって誰かを愛し愛されるかもしれないじゃん。そうなったら凄いじゃん。ね?』

翔のセスナが学校のグラウンドに着陸する。
「大野くーん!!!」
智を見るなり走ってきて抱きついたのは成子。その横で、ストレートな成子を羨ましく見つめる潤子。和也はそんな潤子の気も知らず心配していた他のクラスメイト達と抱き合う。
「桜井くん!よくぞ生徒を助けてくれた!感謝しているよ」と、翔は号泣する校長先生に抱きつかれていた。
何はともあれ文化祭再開!何だカンだで平和に盛り上がった。

1ヶ月後。
「うちのクリスマスは昔からケーキじゃなくて焼き芋なの」と、和也が言った。
智が作ったリースの飾りをドアにつけて近所の植木屋さんがくれたツリーを飾り、和也に智、雅紀の3人で庭で焚き火。一見ささやかだけど楽しいのだ。
「翔くん今頃デートだな。相葉ちゃんも彼女とか作ったら?」
ムスッと芋を頬張る雅紀。
「もうすぐ彼の新しいチップも完成するし、それどころじゃないよ」
「そうだ。名前考えなきゃな。325なんて番号じゃ可哀想だよ、やっぱ」
そんな和也に、智は微笑んだ。
「こんにちは♪」
垣根越しに、おやつの袋を持った潤子と成子。
「やっと来た」
「ゴメーン。お店並んじゃって大変だったの」
女の子も加わって少しは華やいだ(?)焚き火。
「大野くんのためにジングルベルを吹くわ♪」と、智の横に寄り添う成子。
和也は潤子に対して相変わらず色気抜きの距離。和也と潤子の本当のピ〜スは、まだ先のようである。

―END―



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