第3話・PEACE!〜前編〜

体育館にジャージ姿で集合した生徒達。秋の防犯訓練週間だか何だか知らないが『安全太郎』などという人をナメ切った名前の人形を使って講義する先生の話を真面に聞いているのは・・・「先生、質問があります♪」と花のようなスマイルで挙手する智だけだった。
「はい、大野くん何かな?」
生徒の空気をサッパリ読めずにノリノリな草鍋先生。好かれてる先生なのだが一人で暴走するのがたまにキズ。
「おい、何だよ、智」と、智の隣で体育座りの和也は、また智が大ボケな事を言うんじゃないかとヤな予感がして智のジャージの裾をツンツンと引っ張った。
「夜道を一人で歩いて危ないのは女の子だけなんですか?」
「ほほぉ、大野くんは男子も気を付けるべきだと思うのかな?」
「はい。特にうちの和也くんみたいに可愛い子は・・」
ペンッ☆と一発、智の頭を叩いた和也は「何でもないです、先生。続けて下さい」と、智を引っ張って座らせた。
草鍋先生は笑って「確かに大野くんの言う通り用心は大切だね。皆も憶えとくように」
「はーい(全員)」

通学路のコンビニ。中にいる和也を智が外で待っていると「大野くーん!」と、クラスの女子が血相変えて智の所へ走ってくる。
「ん?どうしたの?」
さっきの防犯訓練の技術演習で智を華麗に投げ飛ばした加藤成子さん。空手と縦笛が得意なスラッとした美少女である。
「大野くん、さっきはお疲れ様」
「いえ、こちらこそ♪」
「急いで追いかけてきたの。クラスの女子を代表して私と潤子から頼みがあります!」
「僕に?」
キョトンとする智。
「潤子達も待ってるから一緒に学校に戻って!」
「あ、あの、和也くんが・・」
「お願い!一刻を争うのよ!」
手を引っ張られて智はアッと言う間に連れていかれた。

「・・・あれ?智?」
コンビニの外へ出ると智の姿が消えていたので、和也はキョロキョロした。
「ッたく、どこ行ったよ☆」
「彼なら連れていかれたよ」
「え?」
和也が振り向くと、長い前髪の大人っぽい少年が立っていた。
「彼って俺と同じ制服の泣きそうな顔の奴っスか?」
「ああ。相手はクラスの女の子みたいだったけど」
「どうも。あ、お礼に肉まん食います?」
買った肉まんを差し出すと、少年は消えていた。
「あれ?・・肉まんでも食った方がいいんじゃねぇの、今の人。細すぎ」
和也は首を傾げながら肉まんをかじった。
「ま、いいや」
和也はバス停に向かった。

「潤子ちゃん、何?これ」と、キンキラのヘソ出しミニスカ衣装を着た智。
「智くんイケる!モーニング息子になるかと思ったけど立派に娘だわ♪メイクもグロスだけでいいかも!」
「?」
「智くん、助けて。盲腸で入院したパナ子の代わりに、ゴマキ役やって欲しいの!」
「ゴマキ?」
「文化祭の私達の出し物」
「あァ、ザ☆ピーマン?」
「ザ☆ピ〜ス。お願い!」
「いいよ」あっさり頷く智。
「本当!?」
「うん、困ってるんでしょ?」
「ありがとー智くん!」
「これで一安心ね、潤子。喜びの曲を吹きたいわ」と、潤子の横で成子が笛を取り出した瞬間。
「ちょっと待って!私、反対!なんで飛び入りの男子が良いパートやるのよ」
メンバーの一人の女子が言った。
「パナ子の代役なんだから仕方ないでしょ。だいたい1番良いパートはセンター(石川リカ)役の成子でしょ?智くんに文句があるの?」と、反論する潤子。
「ムカつくわよ!私達より可愛いんだもん!」
「本番まで時間がないから記憶装置が内蔵してて可愛い智くんに頼もうって決めたんじゃないの。今更モメてチームワーク乱さないでよ!」
「潤子の言う通りよ」
シャキーン☆
終始見守っていた成子が縦笛を構えた。
「・・・」
成子の吹く平和のメロディと共に女子達は静まった。
「成子・・私達が悪かったわ。大野くん、頑張りましょうね!」
「うん、頑張ろ♪」
一件落着。

「で、おまえ引き受けたのか?!」
帰宅した智から話を聞いた和也は、飲んでいたホット麦茶を吹き出して聞き返した。
「うん。だって米花さん入院したっていうんだもん。潤子ちゃんや加藤さんに頼まれてさ。でも和也くんがイヤなら謝って断るよ?」
「ンなこと言ってねーじゃん。よくやると思って感心してるだけ」
呆れを通り越して笑ってしまう和也に、智もヘヘッ♪と笑った。
「和也くん、これ平和の歌だよ」
「そりゃピ〜スだし」
「伊勢佐木町ブルースしか知らないから頑張って憶えなきゃ」
「・・何それ」
「喜多川博士が好きだった歌だよ」
「知らなかったな」
「よく研究で疲れた時の憩いに聴いた歌なんだって」と、博士の古いラジカセをスイッチON。
「・・・これが博士の憩い?」
「セクシーな憩いだね♪」

その頃。桜井財閥の地下にある地球防衛軍東京支部の観測データが異常な周波を捕らえた。
「正体不明の異常波が東京上空に現れています!」
「引き続き警戒しろ!」
「了解」

「智、何してるの?」
夜中。和也が眠った後の誰もいない窓辺で外を見ていた智に雅紀が声をかけた。
「あ、相葉さん・・何か飲みますか?」
「ううん、ありがと。和也くんは眠った?」
「はい」
「どうかしたのかい?この頃の智、何か変だよ?」
「そう思いますか?」
「何となくね」
天然ボケに見えても、やはり雅紀は喜多川博士の愛弟子。智の事を冷静に見抜く能力は確かだった。
「相葉さんに聞きたい事があるんです」
「何?」
「僕の他にもバイオニックはいるんですか?」
「まさか。博士が造ったのはキミだけさ。キミの脳に組み込まれてるバイオチップは世界で一つしかない博士の発明品だよ。それがなければバイオニックなんて存在しない。つまり智の他にいるわけないって事だよ」
「でも博士のデータが盗まれてたとしたら?」
「何だって?」
予想もつかなかった智の言葉に雅紀は目を見開いた。
「何を言い出すんだよ、智」
「何か分からないけど、良くない予感がするんです」
「どういう事?」
「相葉さん、もし博士のバイオデータが盗まれて、それを悪の力に使われたら?」
「それに操られた別のバイオニックがいるっていうのか?」
「反応を感じるんです。彼らは人間を敵だと思ってる」
そう呟く智の瞳は不安でも怒りでもなく哀しそうだった。
「バイオの力で人々を支配しようとしてます。相葉さん、僕はそんなのイヤです」
「智・・・」
「だから、相葉さんにお願いがあるんです」
「?」
「最悪の時は僕を処分して。相葉さんじゃなきゃできない」
「智・・」
「間違って僕のチップが悪の手に渡ってしまった時は博士が相葉さんに預けた操作システムで僕を破壊してください」
「和也くんに何て言えば・・」
すると智は微笑んで「まさか相葉さんを恨むと?和也くんなら大丈夫です。あの子はそんな子じゃない。気が強いけど優しい子です。危険なマシーンより人々の安全を選びます」
「…智」
「そんな悲しい顔しないで、相葉さん。最悪の時って言ったでしょ?僕だって、悪い奴らにそんな事させない。ね?相葉さん」
「…キミには負ける」
「僕は相葉さんには勝てないですよ。とゆーより人間には勝てません。おやすみなさい♪」
「おやすみ、智」
智は自覚してないけれど、智の微笑みは魔法だった。雅紀はいつの間にか不安を忘れて、智に微笑み返していた。

翌朝。
「坊ちゃん、お気をつけて」
「はいよ、行ってきます♪」
桜井邸敷地内の滑走路。翔専用セスナを自ら操縦し、文化祭本番の城山高校へ向かって飛び立った。愛車のポルシェが車検のため、本日は空からお出かけの御曹司である。お気に入りのヒップホップナンバーをBGMにセスナは出発した。
「和也達の2年A組は…」
慣れた手つきで操縦しつつ文化祭プログラムを見る翔。
「男子がバンドで女子が歌とダンス?Wパンチで来たか、くっそー。俺らが作った名物ソーラン節を越える気だな、生意気な☆」
ブツブツ言いながら何気にワクワクしている翔。その時だった。
「どわぁッ!?」
いきなり視界に巨大な物体。翔のセスナにニアミス。
「ッだよ?ふざけんな!」
間一髪、翔の操縦テクニックにより回避したが桜井邸の管制塔から緊迫した声で無線が入った。
「坊ちゃん!今すぐ引き返して下さい!未確認飛行物体が城山学園高校方面に接近中です!」
「何ィ?生徒達は無事なのかよ?」
翔はヘッドホンマイクで呼びかけた。
「大変危険です!このままでは巻き添えになります!坊ちゃん、引き返してください!」
「・・・」
「坊ちゃん!応答願います!坊ちゃん、応答を!」
「ラジャー、引き返すよ。和也達を乗せてからな」
「坊ちゃん!いけません!・・」
ブチッ。翔は無線をOFFにし、城山高校へ向かって加速した。

「和也くん、どう?」
可愛い衣装姿に変身した智。和也の前でクルクル回って見せた。
「似合う?可愛い?」
「似合い過ぎてキモイ」
「可愛いって言ってよー。本当は思ってるクセにー♪」
「智くん、着替えたー?」
ガラッと教室のドアが開いて、同じく衣装姿の潤子と成子が顔を出した。
「本番は午後からだろ?張り切り過ぎなんだよ、おまえら」と、和也。
「衣装で一通り練習しとくの。智くんはバッチリ憶えてくれたけど朝美や一美達、今更ビビッちゃってガチガチなんだもん」
「え、屋良さんや福原さん?」
キョトンと尋ねる智。
「大野くんの飛び入り参加反対したほど強がってたのにね。実ははかなくてナイーブなレディなのよ」と、成子。
「励ましに行こうよ」
智は言った。活気づいて慌ただしい校内。4人で廊下を歩いていると…。
「あれ・・あの人は」
校庭の渡り廊下に出た所で和也が何かに気づいた。ゴールポストの脇に一人で立っている少年。昨日コンビニで会った彼だった。こっちを見ていた彼に、和也は手を振った。
「こんにちはー♪」
「?」
智、潤子に成子も彼に気づく。彼は和也に微笑んだ。校庭の砂嵐が吹いて彼のサラサラした長い髪が揺れた。
「文化祭見に来てくれたんですか?」
無邪気に呼びかける和也を見る彼の視線が智に移った。
「!」
視線が合った智の瞳と、彼の瞳が、同時に赤い光線を放った。まるで化学反応を起こすように交差し、触れたら焼ける程の熱を帯びて。
「違うよ。文化祭に来たんじゃない。二宮和也くん、キミを頂きに来た」
「・・・え?」
瞬間。
「和也くん、逃げて!あいつは僕と同じだ!」
智は叫んだ。
「智?!」
ゴオォォォ・・・轟音と共に暗雲が渦巻き、見たこともない巨大な飛行船が校庭に降りてきた。
「キャアアアー!」
「ワァーッ!」
全校生徒がパニックになる中、飛行船から放たれた白い光線が、まっすぐ智の眉間を貫いた。
「智!・・あんた誰だ?!どうしてこんな事するんだよ!」
動けなくなった智を支えて、和也は彼に叫んだ。
「心配するな。そいつのパワーをセーブしただけだ」
「!?」
気が付くと、和也は彼の腕に抱えられていた。動けなくなった智の体は飛行船から下りてきた台に乗せられ、艦内に吸い込まれていった。
「和也くん!」
「大野くん!」
竜巻のような風で近付けない潤子達は泣きながら叫んだ。
「あんたは・・」
和也は、ジッと彼の目を見つめた。一瞬で和也を捕らえた人間のものでない素早さに覚えがあった。あの時と同じだった。博士が死んだ時、炎の中から一瞬で和也を助け出した、あの腕の感触に・・・そっくりだった。あれと同じということは何を意味しているのか。和也は呟いた。
「あんたは・・・バイオニック?」
「正解。お利口さんだね、和也くん」
・・・飛行船は智と和也を乗せて、再び暗雲の中に消えた。残された皆は暫くどうする事もできなかった。

智と和也をさらった謎の飛行物体が東京上空で上昇しているのを翔のセスナのレーダーが捕らえた。
「見えた!例の異常波の正体はこれだ!」
「坊ちゃん!今からでも遅くない!引き返してください!直ちに攻撃態勢に入ります!」
潤子から連絡を受けた雅紀からの無線で全てを知っていた翔は「ダメだ!撃つな!中に和也がいる!攻撃は俺が許さない!待機しててくれ!」
翔は高度を上げ、一気に飛行船に接近した。突然の事態に学校どころか都市全体が恐怖に凍り付いた上空で、セスナは飛行物体を追い続けた。
「・・・誰だか知らねぇけどムカつくんだよ」
ふいに呟く翔。
「これって明らかに戦争ムードじゃんか。俺は・・」
更に機体のパワーを上げる。
「俺は世界平和が好きなんだよ!」
ドビューーーンンン!



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