“Bionic”=“人工物組み込み生体”
“Bionic OH-CHAN”=“自然の心を持つ機械”


第1話・誕生

「喜多川博士!」
二宮和也が学校から戻ると、博士の研究室は火の海だった。
「ぬお〜ッ!私は、もはやこれまで………智よ!あとは頼むぞ!!」
炎の中から、喜多川博士の最期の声が和也に聞こえた。
「サトシ?……博士、俺は和也だよ!今助けに行くからね!!」
制服のまま炎の中へ飛び込もうとした和也。その時だった。
燃えて崩れた柱が和也の上に………「和也くん!危ない!」
知らない声が、そう叫んだ。同時に、誰かの腕に抱えられて、和也の体は天高く舞い上がっていた。
気が付くと和也は、東京タワーの天辺の足場で、筋肉質でナイスバディの素っ裸の美少年に、お姫様抱っこをされていた。和也を覗き込んで、優しく微笑む……彼。

それから約1ヶ月後。今日から2学期。
ジリリリリリ!…ズルッ、ドカン。新しく建て直した研究室。相葉雅紀は、椅子から滑り落ちた。
「また眠ってしまった……和也くんを送り出さなきゃ」
寝癖に白衣姿で、2階に駆け上がる雅紀。
「和也くん、朝だよ……」
すでに制服に着替えた膨れ面の和也が「相葉ちゃん、なんで…あいつも同じ制服着てんだよ?」と、雅紀を睨み付けた。
「智は今日からクラスメイトだよ、和也くん」
「…何がクラスメイトだよ!ただの召し使いロボットじゃんか!」
雅紀を押しのけて部屋を出て行く和也。
「和也くん…」雅紀はションボリした。
その時…「相葉さん」
「あ…智、おはよう」
学校の夏服姿の大野智。その容貌は、見ただけでは彼がバイオロイドと呼ばれる“人造人間”には思えない。微笑む白い八重歯、可愛い垂れ眉に、ライトブラウンのショートヘアが似合っている。どこから見ても、普通の人間の男の子。
「相葉さん、和也くんがお弁当忘れて行っちゃいました」
「…智、和也くんは今朝も笑ってくれなかったよ」
「博士が亡くなって1ヶ月だもの。和也くんは淋しいんです」
すると、ブッブー♪外で車のクラクション。
「あ、桜井くんだ」
桜井財閥の御曹司・翔が、新車の赤いスポーツカーでやってきた。
「相葉、ロボットくん、朝からシケた面じゃないのさ」
「シケてるのは相葉さんだけです。桜井くん、今日もイカしてますね♪」
「ロボットくんも制服キマってるぜ。学校まで乗せてやるよ」
「ありがとう。でも走って和也くんを追いかけます。行ってきます!」
ビュゥーーーーーン!
「…相葉、あいつ車より速いな」
「ジェット機より速いさ」
「さすが博士の発明だけあるな♪」
「それより桜井…“ロボットくん”なんて呼ぶのはよせ。たとえ機械でも、彼には『智』って名前があるんだ」
「おっと、そうだった★」
「全くもう」

放課後。
「和也くん、智くんと一緒に帰らないの?」
「…潤子、あいつのこと気に入ったんなら、潤子にやるよ」
心配する幼馴染みの松本潤子に、和也は相変わらずふてくされて言った。
「喜多川博士は、和也くんのために彼を造ったんでしょ?」
「違うよ…自分の発明のためだよ」
「待って、和也くん!」

コンコン。夜、和也の部屋をノックする雅紀。
「和也くん、ちょっといいかい?」
寝転がって漫画本を読んでいた和也は「相葉ちゃんならいいよ」と返事した。
雅紀は和也のベッドに腰かけた。
「…和也くん、博士が死んだのは智のせいだと思ってるのかい?」
「……」
「博士は自分の病気を知ってから、智を完成させるために必死だったんだ。自分がいなくなったら、誰がキミを守るんだ?て。そして、やっと完成した、その時に……」
「分かってるよ、そんなの」
「和也くん」
「博士は発作で倒れて、そばにあったランプが床に落ちたんだよ」
「それを分かってるんなら…」
「なんであいつは、博士を助けなかったの!?」
「…博士がそう望んだからさ。キミを助けるために」
「……」

ある日の午後。
「さっとし♪」
翔の声に、智はクルッと振り向いて微笑んだ。
「こんにちは、桜井くん」
「人造人間もフツーに買い物するんだね」と、智の手に下げているスーパーの袋を見て、翔は言った。
「うん。晩ご飯の材料。和也くん育ち盛りだから、美味しい物作ってあげないとね」と、ヘヘ♪と笑う智。
「智は和也が好きなんだ?」
「うん」
「でも和也の奴、智に冷たくねー?」
「でも好きです」
「そーなの?」
「うん。だって和也くんは和也くんだから……」
「智?…どうした!?」
突然、智の顔つきが変わり、その瞳が真紅に光った。
「和也くんが危ない!!」
智の手からスーパーの袋が落ち、脳内探知機が作動した。
「集団の不良にからまれてる!今すぐ助けに行かなきゃ!潤子ちゃんも一緒にいる」
「何?さては…あいつらだな!いつも和也に因縁つけてた奴らだ」
ビュゥーーーン!
「おい智!俺も連れてけっての!」

学校帰りに港の公園を二人で歩いていた和也と潤子は、智が探知した通り、街の不良グループに囲まれていた。
「ガキがいっちょ前に女なんか連れやがってよ」
「潤子は関係ねぇだろ!話があるんなら俺だけにしろよ!」
「女を渡せねぇなら、金出しな」
すると和也は気丈に睨み付けて言った。
「どっちもやだね。…おまえらになんか何も渡さねーよ!」
「何だと…このチビ!」
「!」
不良の振り下ろした鉄パイプが、真っ直ぐ和也の頭上に………ガシン!金属同士がぶつかる音。
「…?」
和也に痛みはなく、潤子をかばいながら顔を上げると、智がいた。和也の壁になるように相手の前に立ちはだかって、不良から鉄パイプを奪い取ると、軽々と真っ二つに折り曲げた。一見、和也より軟弱そうな容貌の智のその行動に、不良達は呆然と立ち尽くした。
「なッ…何者だ、テメェは!」
「友達だ!!」
「わァーッ!」
智の片手で投げ飛ばされた不良は、公園の噴水も木も策も一気に飛び越えて、ドボォーン!と海に落っこちた。
「おまえ達も許さない!二度と和也くんに近付けないようにオシオキだ!」
「わ…悪かったよ!助けてくれェー!」
すると「…智!もうやめろよ!」
智の怒りが残りの不良達へ向かっていこうとした瞬間、智の背中に抱きつく和也。
本当なら人間の力では押さえ込む事などできないのに、智のパワーが一気にクールダウンしていった。
「ヒィィィーッ!」と、スタコラ逃げていく不良達。
「和也くん…痛い所はない?」
「…平気だよ」
「潤子ちゃんも?」
泣いていた潤子は、智にコクンと頷いた。
「よかった。和也くん、家に帰ろう」
「余計な事しやがって……おまえなんか助けに来なくたって平気なのに」
すると、智は言った。
「和也くん、いつか本当に僕の助けなんか必要なくなる日は来るんだよ。
その時まで、僕は和也くんのそばにいるんだ」と、微笑む。
それは怒りに満ちたマシーンではなく、優しい智の顔だった。
「和也くん、それが僕の任務で、僕の望みだよ。喜多川博士から預かった、僕自身の望み」
「……智」
その時、キキーッ!やっと到着した翔の赤いスポーツカー。
「あれ?」
抱き合う和也と智の姿に、翔は「あ〜あ、解決しちゃったのかよー☆」
「あ、桜井くん」
「しょーがねーな。みんな乗りな。送ってやるよ」
「ありがとう♪」

晴れた日。放課後のグラウンドに、制服姿の和也と智がいた。
「俺が小さい頃から、博士はもう年だったから相手できなくて、俺…父親とキャッチボールできる子が羨ましくてさ」と、家から持ってきたグローブを手にして、呟く和也。
すると智は言った。
「僕が相手じゃダメ?一応パパ代わりもしてるから♪」
「やった事あんの?」
「今、運動プログラムから呼び出したよ」
「…なるほどね」
和也はクスッと笑うと、もう一つのグローブを智に投げた。
「いくぞーッ!」
「来いッ♪」
2人の元気な声が、夕焼けのグラウンドに響いた。

―END―



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